同級生♥探訪 person.1
平尾の交差点を西に向かうと山荘通りから平和町へと移る。
更にその先は緑豊かな住宅地の小笹が広がり輝国、梅光園、六本松・別府と続く。
当時は西鉄平尾駅の下を博多駅と姪浜を結ぶ国鉄筑肥線が走っていた。
現在、線路は取り払われ、すっかり景色は変わり筑肥新道と言う道路が東西を繋いでいる。
余談だが別府橋の直ぐ近くに架かる樋井川筑肥橋の欄干には汽車の車輪がデザインされていて当時の記憶を留めている。
さて、今日伺うのは、その筑肥新道沿いで山荘通りと平和町の境目にある板金工場である。
社長兼工員のその男は口数は少ないがいつも人懐っこい笑顔を絶やさない。
塗料と油にまみれ、コツコツと作業を進める。
そんな彼は皆に慕われ周りには人が集まって来る。
なんせ、技術と笑顔は最上であるからだ。
その男は、娘を保育園に送り届けたあと、工場に入ると油で汚れたタオルを拾い上げ、昨日の作業だったボンネットのパテを真横から確認してその滑らかな仕上がりに口角を上げる。今日は塗装して、車体への取り付けを行う。夕方までには終了するので、ホッとしていた。
いつものように今日一日のスケジュール表を覗き込むと、
いつものようにタバコを取り出し、煙を吸ってはゆっくりと吐き出した。
そして、いつものように左手には缶コーヒーを持っていた。
さて、これまで散々、断わって来たがいよいよ今日がその日だ。
いや、断わったと言うか照れ臭かったのだ。
でも、あの陽気な太った男はグイグイと詰め寄ってくる。
そう、いつものように。
工場のシャッターはまだ閉めたままで工場内は薄暗いが、隙間から陽の光が差し込んでタバコの煙が薄い板のように見える。
「俺一人が行っても行かなくてもねぇ」
つい言葉が漏れたが、コンプレッサーの派手な始動音にかき消されてしまった。その調子っぱずれのタイミングに
「ま、いっか」と微笑むと、タバコを最後まで吸い上げ、工場のシャッターをガラガラ開けた。
河N雄一郎 50歳
今日も暑い一日になりそうだ。
(BGM)
2017年6月撮影 (BGM F.O.)
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